「コーヒーの科学」紹介(6)

#6章の紹介

6章のテーマは「焙煎」。焙煎については、前著『コーヒー おいしさの方程式』や、科学監修として関わった『田口護のスペシャルティコーヒー大全』なども通じて、これまで最新の科学研究を紹介する機会が何度かありました……というより、カフェバッハの田口氏が見いだしてきた経験則と、私の知り得た科学知識を擦り合わせ、どうやって「高品質な焙煎豆作り」に活かすかというのが、これまで関わってきた本での大きなテーマだったわけです。このため、自家焙煎店などで焙煎機を使って焙煎するプロ向けの内容が中心だったとも言えます。


しかし少し視点を広げてみると、手網やフライパンなどで煎るのも、れっきとした「焙煎」です。焙煎によって(商品になるかどうかなどの、品質はさておき)物理的、科学的変化が豆に生じるという現象自体に変わりはありません。そこで今回は、もう少し俯瞰的なかたちで、焙煎を考えてみました。

自分で焙煎したことのある人は、読者の中にはそれほど多くはないことも考えて、まずは簡単な「手網焙煎のやり方」を紹介、そして中盤で焙煎時の科学的な変化について解説し、章の後半でプロの焙煎機についての話をしています。これまで前著などで紹介してきた話は、この「後半部分」を詳しく掘り下げてたわけです。

このため、プロにとっては若干物足りないかもしれませんが、中盤だけでもおそらく初めて聞くような内容が多いと思いますので、どうか一つ勘弁してもらえたらと。

『コーヒーの科学』紹介(5)

コーヒーの科学 「おいしさ」はどこで生まれるのか (ブルーバックス)

#5章の紹介

コーヒーの香味を生み出すもの……それは、コーヒーに含まれる多種多様な化学成分です。ただの白湯からは、コーヒーらしい味も香りも感じることはありません。生豆を焙煎することによって作り出され、抽出によってお湯へと溶出してくる化学成分が、いわば「コーヒーの香味の本体」だと言えます。


コーヒーの味や香りの成分は古くから研究者の関心を集めてきましたが、その正体はまだ完全には判っていない部分が残っています。とは言え、1990年頃からの研究の進展によって、苦味や酸味、香りなどの中心的役割を担う成分について、徐々に明らかになってきました。5章では、こうした「コーヒーらしい香味」の成分を中心に解説しています。


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前著の紹介記事( http://d.hatena.ne.jp/coffee_tambe/20140112 )でも少し触れましたが、コーヒーの味の元になる化学物質については「百珈苑」本体の方でも記事を公開しています。



また、前著となる『コーヒーおいしさの方程式』では、さらに「香りの化学」の内容にも踏み込みました。コーヒーの香り成分は種類が非常に多いのですが、上手く分類すると、グループごとの香りの特徴やその発生過程などに、ある程度のパターンを見いだすことが可能です。そしてさらに、(1)多くのコーヒーに共通する香気成分(のグループ)、(2)深煎りに共通する成分、(3)浅~中煎りに共通する成分、そして(4)独特な品種や銘柄に固有の成分、というかたちに整理していくことができます。

前著では、おおまかな総論はフレイバーチャート(右図)にまかせて、あまり詳説はせず、トピック的な香り成分をいくつか紹介するようなかたちにしていました。今回は、この「香りの化学」の各論をさらに詳しく、「コーヒーらしい香り」の元となる成分、「香ばしさ」の成分、ウイスキーのような深煎りの香り、浅~中煎りの甘い香り、そしてゲイシャやケニア、イエメンモカの香りなど、さまざまな「コーヒーの代表的な香り成分と、その特徴」について解説しています。

『コーヒーの科学』紹介(4)


【お知らせ】『コーヒーの科学』出版を記念して、本のレビューサイト「ブクログ」様で、5名様分のプレゼント企画が実施されています。詳しくは下記URLにて

http://info.booklog.jp/?eid=866


#4章の説明

考えてみるとコーヒーとは不思議な飲み物です。

コーヒーを飲んだ時に真っ先に感じるであろう「苦味」は本来、不快に感じる味の代表にも関わらず、多くの人がコーヒーを「おいしい」と言いながら飲んでいます。このとき感じている「おいしさ」って一体何なのでしょうか? 4章ではこのテーマに、我々ヒトが「おいしさ」を感じる味覚や嗅覚のしくみからアプローチしました。


コーヒー おいしさの方程式

「おいしさ」の仕組みについては現在「分子美食学」や「神経美食学」など、いくつかの科学の分野からアプローチが行われています。しかしコーヒーについては、一般的な飲食物に関する考え方だけでは説明しにくい部分があるのが現状です。そこで最新の科学的な知見に基づく仮説を交えながら、コクやキレや舌触りが生まれる仕組み、そしてやみつきになるおいしさのメカニズムなどについても考察を行っています。


なお、コーヒーのコクやキレについては、前著『コーヒー おいしさの方程式』でも仮説を述べたため、目新しさはないかもしれません。ただし今回は、背景となる文献などにも触れつつ、総合的かつ厚めに論じています。

『コーヒーの科学』紹介(3)

#3章の説明

「コーヒーの科学」という本で、歴史の章をもうけることを不思議に思う方もいるかもしれません。しかし、例えば微生物学の教科書では、最初のあたりにレーウェンフックやパスツール、コッホなどによって微生物が発見され、病気との関わりが解明されていった経緯が書かれています。他の分野でも同様でしょう。細かな年号を覚える必要はありませんが、時系列に沿った「歴史の流れ」を知ることが、そのものについて系統だった理解をする上では役立つのです。


例えば、現在各国で栽培されているコーヒーがいつ、どこから伝わったものかを知ることで、品種の系図を理解することが可能です。このブログでも さび病パンデミックについてをはじめ、ずっとそうした試みを続けてきましたが、この歴史の章ではそれを大筋としてまとめました。この他、飲用のはじまりや、焙煎・抽出技術の変遷、代用コーヒーやカフェインレスなどの特殊加工技術の歴史についても触れています。


また、ある昔の文献で触れられている「おいしいコーヒー」に関心を持って、それが一体どんな香味だったのかなど、その謎を解き明かそうと思ったとき、それが書かれた時代や地域などの背景知識が役立ちます。

例えば19世紀前半のフランスで、大のコーヒー通として知られていたバルザックは、ハイチとモカとレユニオン(ブルボン)島の豆をブレンドしていたとも言われていますが、このうちモカは伝統ある最古の産地、ハイチとレユニオン島はそれぞれ18世紀のブルボン朝時代にコーヒーで成功したフランス植民地……王党派だったと言われるバルザックらしいな、とか、品種的には(現代のものとは違う可能性はあるけれど)イエメン栽培種とティピカ、ブルボンのブレンド。しかも当時はまだ水洗式精製は開発されてないので全部乾式だな、とか、彼が高く評価していた抽出法がドリップ式なのはこれが19世紀初頭にフランスで考案され、広まっていたからだな、とか、そうした情報と一緒に読み解くことが可能になるわけです。

どんなコーヒーが「おいしい」と言われるかは、そのコーヒーが飲まれている地域や時代によっても大きく変わります。一つの地域や時代だけの価値観に囚われず、いろいろなタイプの「おいしさ」を出来るだけ客観的に解き明かすためには、時代的な変遷を知っておくことが大きな助けになるのです。


ちなみに今回の本の中で、書きはじめと完成版とで、いちばん内容を大きく変更したのがこの3章です。今は全体で15万字くらいですが、草稿として書いたのはその倍以上。特に3章は随分削りながら書いたのですが、それでも8万字越えてました。歴史についていろんな情報と結びつけられるように書こうとすると、どうしてもそれくらいの文章になってしまったのです。さすがに多すぎると言うことで、今回は全部を載せることは諦めて直接的なつながりが大きい栽培や技術史を中心にすることになりました。載せられなかった歴史については、今後また別のかたちで世に出したいと考えています。

『コーヒーの科学』紹介(2)

#2章の説明

世の中に出回っているコーヒー本には、まず「コーヒーノキはアカネ科の常緑樹で…」というところから話をはじめているものが結構あります。というわけで、この本もそこから話をはじめて……で、折角なので、植物の分類学、形態学、生態学……とそのまま植物学の内容で、丸々1章分にしてみました。


「別にそんなこと知らなくても、コーヒーを煎ったり淹れたりするのには関係ない」と思うコーヒー屋さんも、中にはいるかもしれません。まぁ実際、それは否定はできません。

しかし例えば、アメリスペシャルティコーヒー協会(SCAA)は数年前から、ことあるごとに、こうした植物学的な内容を含めた、科学者による講演/講義を、会員向けに実施しており、それなりに「科学教育」に力が入れられている領域であることも事実なのです。ところが、日本では今のところそういう機会は非常に少なく……あっても英語講演だったりするので、日本語で読める情報源が一つくらいあった方がいいだろう、というのも、これを1つの章にした理由です。


見た目には、わりとよくある観葉植物のような「コーヒーノキ」。でも、ちょっと掘り下げると、いろいろ変わった特徴、変わった性質が見つかります。栽培の段階で出てくるいろいろなキーワード……例えば、高い樹木と混植するシェード栽培や、表年と裏年のある隔年性など……を、こうした植物学的な性質から読み解くことが可能です。


じつは植物学的な内容のうち、分類や起源などについては、じつは百珈苑の本体の方でも「コーヒー前史」として紹介していました。

https://sites.google.com/site/coffeetambe/coffeescience/botany/origin

ただし最近の遺伝子研究の進展は早く、そこに書いている内容も古くなってしまってます。そのうち書き直さないと……と思ってはいるのですが、とりあえず先に、今回の本で「現在最新の考え方」を紹介することにしました。

『コーヒーの科学』紹介(1)

いよいよ発売日が近づいてきましたので、ぼちぼちと内容をご紹介。


まずは、もくじから


1章:コーヒーができるまで

2章:コーヒーノキとコーヒー豆

3章:コーヒーの歴史

4章:コーヒーの「おいしさ」

5章:おいしさを生み出すコーヒーの成分

6章:焙煎の科学

7章:コーヒーの抽出

8章:コーヒーと健康


1章はイントロとして、コーヒーにあまり馴染みのない人向け&おさらいに、収穫後の精製、焙煎、抽出までの流れをざっと説明している短めの章です。

残りの章はほぼ同じくらいのボリュームで。2章は植物学的な話、3章は生産や抽出などの技術史を中心にした歴史の話、4章5章はそれぞれ「おいしさ」に関わる生理学的な話と化学の話、以下は焙煎、抽出、健康という章立てになっています。どの分野も最新研究までカバーした、科学の話を割と「ガチ」に詰め込んだ内容を噛み砕いて解説しています。

新刊のお知らせ

前回からずいぶん間があいてしまいましたが、久しぶりに更新を。

「コーヒーおいしさの方程式」から2年。その間、何をしていたかというと……次の本を書いてました。

正式に刊行の目処が付いてからお知らせを、と思っていたら、いざ刊行の目処がたつころには校正その他で忙しくなり、こちらでのご報告が遅れてしまいました。

コーヒーの科学に関する新書を講談社ブルーバックスより上梓します。発売予定は2/19です。

内容詳細については、ぼちぼちお知らせするということで。