現在のインドネシアの品種

インドネシアでは、現在も多くの種類の耐さび病品種が栽培されており、いわば「耐さび病品種の見本市」みたいな感じだ。これらの栽培品種は、大まかには5つに大別することが可能だ。

  • ロブスタ
  • アラビカ
  • ハイブリッド
    • Sライン(アラビカxリベリカ交配種由来)
    • ハイブリド・デ・ティモール(HdT)系(アラビカxロブスタ交配種由来)
    • カチモール系(アラビカxロブスタ交配種由来、矮性)

ただしアラビカが混じっていれば、ハイブリッド品種でもすべて基本的に「アラビカ」の仲間として扱われている。これはインドネシアに限った話ではないが、注意が必要だろう。


なお、インドネシアの「栽培品種」の名称は、他の産出国に輪をかけて、かなりいい加減な部分が多い。他の国では別の名前で呼ばれている栽培品種が、インドネシアでは独自の名前になっているものも多い。これは現地の農園主が、割と「てきとうな」名前で呼んでいて、そちらの名前が普及しているせいでもある。


ロブスタ

インドネシア全体で見れば、依然として低地産のロブスタが主流であり、生産されるコーヒーの70~80%がロブスタだと言われている。特に、南スマトラやジャワ島では、19世紀半ばに定着した水洗式精製が、ロブスタにも適用しつづけられてきた経緯があり、「ジャワコーヒー」は、一般に水洗式ロブスタの代名詞とも言える状況になっている。

水洗式(湿式)精製は、"washed","wet-process"と呼ばれるが、西インド諸島で主流になったことから、かつては「西インド式精製」(West indian processing) という別名でも呼ばれた。オランダ語ではこれを"West Indische bereiding"と呼び、その頭文字をとったのが"WIB"である。現在も「ジャワロブスタWIB」のように生豆の名称に見られる。


アラビカ

現在インドネシアで栽培されるアラビカは、

  1. クラシック・スマトラ
  2. アビシニア/USDA
  3. ブラワン・パスマー

である。いずれも「純粋なアラビカであり高品質」ということを売りにして栽培されている。ロブスタよりさび病に弱く、中でもクラシック・スマトラは特にさび病に弱い。アビシニアやUSDA、ブラワン・パスマーは、それに比べると若干ながら抵抗性があるようだ。ブラワン・パスマーは現在ではあまり見られないようだ(一応栽培されてはいるらしく、文献には見られるのだが…)


このうち、クラシック・スマトラは、ほぼスマトラ島北部でのみ栽培されている。トバ湖周辺の、いわゆる「マンデリンコーヒー」のエリアか、さらに北方のガヨ地方でも一部産生されている。


S-ライン

S-ラインは、ハイブリッド品種の中では比較的、品質が高いものと位置づけられる。これはロブスタでなく、リベリカとのハイブリッドであることに起因するが、その分、さび病に対する抵抗性では劣る。スマトラ島やジャワ島など、インドネシア各地で広く栽培されている。

特に、南スマトラから、ジャワ島、スラウェシ島、バリ島などインドネシア中央~東部では、S-795に由来する「ジェンベル」が、高品質の品種として好んで栽培される傾向にある。スラウェシ島南西部のタナトラジャ地区、カロシ地区では、「トラジャコーヒー」「トラジャ・カロシ」などの銘柄のコーヒーが産出されているが、これらは品種上ではジェンベルであるようだ。バリ島ではS-795の名前で栽培されている。

また、現在「マンデリン」の産地として知られる、北スマトラのトバ地区に1970年以降、ラスナの名で導入されたものも"Kopi Jember"、すなわちジェンベルであるらしい。


HdT系

ハイブリド・デ・ティモール(HdT)は東ティモールで見つかったアラビカ×ロブスタの自然交雑種である。この品種はポルトガルさび病研究所(CIFC)で研究されていたが、後にこの品種を元に開発されたカチモール(後述)の方が世界的に広まり、HdTそのものが栽培されている産地はあまり例を見ない。インドネシアでは東ティモールを併合したことから、この品種が直接、スマトラ島北部の中央アチェ地区に持ち込まれ、栽培されるようになった。


優れたさび病耐性を持つが、品質的にはアラビカとロブスタのちょうど中間だと言われ、他の国ではあまり高く評価されてはいない。しかしスマトラ式の精製法(後述)を行ったものには、同じ精製法のアラビカよりも高く評価されるものもある。中央アチェのガヨ地区やトバ湖周辺など、スマトラ島北部で主に栽培されている。


カチモール系

インドネシアのカチモールは、HdTと同時に東ティモールから偶然持ち込まれたものが起源であるとされる。元々は、CIFCがHdTをカトゥーラに戻し交配して作った、矮性の耐さび病品種である。HdTと同様に優れた耐さび病を持ち、高収量で収穫性がよく、また戻し交配したことによって品質も多少改善したと言われている。


当初、この品種はアテンと呼ばれ、アチェ地区から一気に広がりを見せた。現地の小規模農園で栽培されていくうちに、さまざまな名前が乱立し、また性質の変わったものがインドネシア各地に広まっている。インドネシアで現在栽培されている矮性品種には、さび病に対してほとんど耐性を示さないものが見られるが、これらが「さび病耐性を失ったカチモール」なのか、「(どこかから導入されていた)元からさび病耐性を持たないカトゥーラなど」なのかについては、現地での品種の混乱も相まって、よく判らないというのが現状だ。しかし、現在主流のアテンやシガラー・ウタンなども徐々に耐性を失いつつあることなどから、SCAAやFAOなどでは、カチモールに由来するものが多いと考えているようだ。


現在、北スマトラから広まったアテンやシガラー・ウタン、また主にジャワ島などで栽培されているカルティカやアンドゥン・サリなどが、このときのカチモールに由来するものと言われており、インドネシア各地での主力品種になっている。また、マンデリンが栽培されているトバ湖周辺でも1990年頃から栽培されている。ティムティムと同様、スマトラ式精製法ではアラビカよりも良質と評価されることがある。