『コーヒー おいしさの方程式』紹介 (7)

全体像の話はこれくらいにして、そろそろ、つっこんだ「細部」の部分について紹介したいところですが、実際に発売された後から補足解説した方がよさそうなところも多いので、そこは後日やることとしましょう。


コーヒー「こつ」の科学―コーヒーを正しく知るために

5年ほど前、私の友人の一人である、石光商事の石脇智広氏が『コーヒー「こつ」の科学―コーヒーを正しく知るために』という素晴らしい本を世に出しました。石脇氏もまたコーヒーの世界に深い関心を持った科学者の一人で、田口氏の強いアプローチでコーヒー業界に入り、また田口氏の勧めでこの本を書いたと聞いています。現在は、全日本コーヒー商工組合連合会が行っている「コーヒーインストラクター検定」にも尽力しておられ、一般向けの「コーヒーインストラクター1級・2級」、プロ向けの「コーヒー鑑定士」育成のための講師や教本作製の統括としても活躍しています。風の噂によると、非常に厳しい「鬼軍曹」っぷりで恐れられているとか*1


彼の出した『コーヒー「こつ」の科学』を読んだとき、非常に衝撃を受けました。そして「こりゃ負けてはいられない」と、それまでに多くの文献を読んで、自分の頭の中にあった知識をまとめて自分の手元で文書化を始めました…途中、まだまだ自分の知識が及ばない章などに直面して現在は執筆を中断していますが、その未発表の原稿が前回の『スペシャルティコーヒー大全』の原図や、今回の本の元ネタの一つになっています。


その原稿から一章だけ抜粋し、またまだ世に出すには早いと判断した内容を削って紹介してるものが、

です。


見ていただくとわかるように、成分の化学物質名や化学構造式がぽんぽんと飛び交っており、ある程度の化学の知識があることを前提とした…概ね、大学理系の教科書レベルの内容を前提に書いてあります。語り口だけは柔らかくしてありますが、それでもかなり読者が限定されるテキストです。今回の『おいしさの方程式』では、その内容を嶋中氏がわかりやすく噛み砕いた文章にしてくれています。


またそれだけでなく、インターネット上ではまだ公開していない仮説の部分についても、本書の中で語っています。

上記のサイトを読み進めてもらうと、

しかし一方で、我々はコーヒーの苦味には「強い苦味」「弱い苦味」という強弱、すなわち「量的な違い」があるだけでなく、何らかの「質的な差」が存在することを知覚しています。例えば「コクのある苦味」「キレのある苦味」などの表現がこれにあたります。これについては、いずれ説明できる日が来るでしょう。(「コーヒーの苦味の特徴」より)

このように、科学的な解明を進める上での「悪条件」が積み重なっているため、コーヒーの甘味に関する研究はほとんど進んでいないのが現状です。今後の進展に期待したいところですが、一方ではやはり、なかなか難しいことも予想されます。もしかしたらコーヒーの味の中で、甘味は「最後の謎」になるものなのかもしれません。(「コーヒーの甘味の謎」より)

など、コーヒーのコクやキレ、甘さ(甘味)については、わざとぼかした表現にしています…が、これはウェブでの公開時に「書けなかった」のではなく、自分の中で答えを持っていたけれど、あえて「書かなかった」部分です。今回の本ではそこにも踏み込んで、コーヒーのコクやキレ、甘さ(甘味)に関する科学的見地からの仮説を、初めてまとまった形で披露しています。

また「味の化学」に続く、香りの化学、抽出の科学など、これまで未発表の部分についても、今回の本ではじめて披露することになります。

*1:実際は人当たりのよい温和な方です…コーヒーの話になると真剣そのもので容赦ないですが:そういう意味では今回の本を出すにあたって、いちばん怖い人の一人です