「モカの通った道」

現在、コーヒーノキは世界中に広まっており、その元を辿れば「ティピカ」と「ブルボン」というアラビカの二大品種に行き当たる。この二大品種はそれぞれ異なる道、つまり「ティピカの道」と「ブルボンの道」を通って世界中に広まったものだ。

この「二つの道」の出発点は、どちらも17-18世紀のイエメンになっている。また、「コーヒーという飲み物」と「コーヒー栽培」の起源がイエメンである、ということにも間違いないだろう。


しかし(ご承知のように)そこはまだ本当の「源流」とは言えない。かつて、スピークがナイル川の源流を求めて「ビクトリア湖」を発見したが、そこに注ぎ込む本当の源流が存在していたように、コーヒーにもイエメンより上流の、本当の「源流」が存在する。


多様な野生のコーヒーノキが存在する事や、近年の遺伝子解析の結果などから、エチオピア南西部がその「水源地」であることには疑う余地はない。しかし、ではエチオピアから、いつ、どのようにイエメンにもたらされたのか。これは間違いなく、コーヒーにまつわる「最大の謎」の一つであり……そして恐らくは「答えの失われた問い」でもある。

「これこそが真の正解」と間違いなく呼べるような記録や文献は何一つ残されておらず、さまざまな証拠から「推理」するより他にない。多くの研究家がこの「モカの通った道」を、さまざまな観点から論じているが、ここらで一度、自分の考えを整理する意味も兼ねて、再び「粗考」しておきたい。