アラビカとロブスタ

「あれだけスペシャルティとか高品質とかと言ってきたのに、いまさらロブスタの話?」と思われた方もいたかもしれません。ゲイシャとかパカマラとか、いろんな品種が出てきた中で、なぜ今更アラビカとロブスタの比較なのか。


理由は三つあります。その一つ目…これが最大の理由なのですが、とても単純で、ゲイシャやパカマラと言った、スペシャルティ時代になって脚光を浴びるようになった新しい品種では、成分を分析した論文がまだ出てないからです。データが出てないものは、取り上げようがありません。

これも「いわゆるコモディティ時代」のものになると、品種と成分や香味を比較した論文はそれなりにあります。実際の香味や、これまでの(コモディティ時代の)論文のデータから考えると、例えばゲイシャには、花や柑橘系、アールグレイ紅茶の香りがするリナロールとか、レモンの香りがするリモネンなど、テルペノイド系の精油成分が、従来のコーヒーの品種に比べると多いんじゃないだろうか、とか仮説だけならいくらでも立てることができます。しかし、それが本当に正しいかどうかは、実際に分析された研究論文がない以上は何ともいえないのです*1


では「コモディティ時代」のデータでもアラビカで、成分に違いがあるようなアラビカの品種間で比べればいいじゃないか、と思われるかもしれません。しかし本文中でも触れているように、例えばティピカとブルボンの比較のような、アラビカの品種同士での比較では、成分レベルでの違いはほとんど見られません。だから、これらを「成分レベルで」比較しても、品種の違いと香味との関連を説明することはかなり難しいのです。これが二つ目の理由*2

この「香味における品種の重要性」を解説するためにいちばん打ってつけなのが、結局、成分の違いが非常にはっきりしているアラビカとロブスタの比較です。つまり「From Seed To Cup」の流れの中で「品種(→ seed)の重要性を最も端的に表すモデルケース」として、これを例に挙げたわけです。


そして三つ目…これは非常に複雑で、結構デリケートな問題なのですが、耐病品種との関連があります。

*1:SP大全が出るころから、まだかまだかと論文が出るのをずっと待ち続けてるのですが。

*2:「でもティピカとブルボンって、香味がちょっと違うじゃない」と思う人もいるかもしれません。その通りです。「生豆の成分は大差ないはずなのに、焙煎すると味が違う」というのは、非常に面白いポイントなのですが、それを説明することができた研究者はまだいません。実は田口氏の「システム珈琲学」の中に、その答えの可能性があるのですが、それは後日に。