Q.なんでそんなに恐れられているの?

A.「樹そのものを枯らすほどのダメージ」と「爆発的に広まる伝染力」の、二つを兼ね備えているからです。


コーヒーには、さび病以外にもいくつもの病虫害があります。例えば、アフリカのコーヒー炭疽病(Coffee berry disease, CBD)や、ベリーボーラー(Coffee berry borer)と呼ばれるゾウムシの仲間による食害は、しばしば特定の産地で流行します。ひどいときでは、その年のコーヒー豆の収穫量を最大で50%-80%減少させるほどの被害になった記録があります。いくら農業自体が不安定な産業とはいえ、大雑把に言って*1、生産者にとっても「年収の5-8割カット」という大損害です。ただし、これらの病虫害は実やコーヒー豆にダメージを与えますが樹そのものへのダメージは大きくないため、次の年は、流行しなければそこそこの収穫が期待されます。


一方、土壌中の線虫(ネコブセンチュウ)や、幹に穴をあけるカミキリムシの幼虫などは、樹そのものを枯らしてしまうことがあります。俗に「桃栗三年珈琲四年」と言いますが*2、植え付けしてから収穫まで通常4年ほどを要するコーヒーでは、樹が枯れることは大きな損害に繋がります。枯れてしまった樹の代わりを植えて、収穫できるようになるまでの4年間、その分の収入が得られないことを意味するので、これも生産者にとっては大きな痛手です。ただしこれらの病虫害の多くは、病気の進行や、被害の拡大するスピードはそこまで早くはありません。早めに手を打てば「数年間にわたる、少しの減収」で何とかなるかもしれません。


これに対して、コーヒーさび病は下手をすると、2-3ヶ月で一つの農園、あるいは一つの産地のコーヒーノキをまるごと駄目にしてしまうほど、一気に広まり、しかもコーヒーノキそのものに大きなダメージを与えます。世界で初めてコーヒーさび病が発生したスリランカ(セイロン)では、わずか数年で90%以上のコーヒーノキが駄目になり、ほとんどの生産者がコーヒー栽培を見限って、生産そのものが崩壊しました。その後、スリランカが紅茶の栽培に転向したのは、良く知られています。

コーヒーさび病は、その被害規模でブラジルの大霜害*3とも比べられます。対処法の研究が進んだ現在では、実際の被害額や対策の有無では、おそらくコーヒーさび病の方がマシですが、ブラジルの高緯度地帯に特有の問題である霜害と違って、コーヒーさび病は世界中、どの生産国でも発生する危険性があるため厄介だともいえます。

*1:実際はそう簡単な問題ではなく、コーヒー豆の国際取引価格の変動が関わってきます。特に世界の総生産量に影響するほどの被害ならばなおさらです。

*2:言いません。

*3:1975年のパラナ州の大霜害では、前年の出荷量の97%減…つまりわずか3%までに減少した。