コーヒーとアレルギー

番組後半、視聴者からのメール/FAXに野田先生が回答する中で「カフェインやコーヒーでアレルギーに」というものがありましたが、この部分は野田先生の回答がよくなかったと思います…アドリブでの対応なので仕方ないとは思いますが、「コーヒーを飲んでアレルギーを起こす人がいる」かのようにも受け取られかねなかったので。


実際、いろいろ見聞きしてると「私はカフェインにアレルギーがあって…」とか「コーヒーにアレルギーがあって飲めない」と言う人は結構みかけます。が、それがもし「本当にアレルギー」なら、担当した医者が論文(症例報告)を書いて、世界に発表できるくらい珍しい事例です。実際のところ、それらの多くは「自称・アレルギー」であって、本当の意味でのアレルギーではないのが大半…とか言うと、反感持つ人もいるかと思いますが、いわゆる「病気としてのアレルギー」と、「カフェインに敏感」というのは別物なのですから、医学的表現として正確ではないのです。


実は、世界に目を向けると「コーヒーによるアレルギー」と書かれた論文は割と見かけます。が、それらはいずれも、コーヒー生産者やコーヒー生豆の運搬を行う人たちに起きるアレルギーについて論じたものです。コーヒーの生豆の表面には、チャフまたはシルバースキン(銀皮)と呼ばれる、非常に薄い皮が付着しています。その一部が、生豆を扱っている際に剥がれて小さな塵や埃になり、それを大量に吸引した人でアレルギーを起こす人がいるのです。これが医学上、一般に「コーヒーアレルギー」と呼ばれてるものの正体です。


このアレルギーはチャフに対して反応するものであって、焙煎豆やコーヒー飲料そのものには反応しないことも報告されています。生豆を焙煎する過程で、熱処理によってアレルゲンの大部分が壊れて失われてしまい、また豆全体を覆っていたチャフの大部分が焙煎過程で剥がれてしまうことによります。したがって、このタイプの「コーヒーアレルギー」の人は、普段から生豆を大量に扱う仕事をしていて、しかも飲み物のコーヒーには反応しないものだと言えます。なお、このアレルゲンの正体はチャフに含まれている、何種類かのタンパク質だと考えられています。そのうちの最初の一つが今年になってから、はじめて同定され Cof a 1(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22722540)と名付けられています。その正体は、キチナーゼというタンパク質であり、カビの細胞壁を分解することでコーヒー豆がカビから身を守るために使っている感染防御タンパク質だということが判明しました。


またこのタイプの「コーヒーアレルギー」以外に、きわめて稀なケースとして、カフェインによって蕁麻疹やアナフィラキシー(急性のアレルギー反応)を起こすケースが報告されています。

…これで全部です。これまでに世界中で、蕁麻疹を起こす人が3例、アナフィラキシーを起こす人が1例、報告されています。ひょっとしたら「自称コーヒーアレルギー」の方の中に、歴史上5人目となる患者さんがいるのかもしれません。その場合、担当医の先生が上にあげたような論文を書いて、世界に発表できるくらいの「事件」になるでしょう。


…まぁ混ぜっ返しはさておき、では「自称コーヒー(カフェイン)アレルギー」の方は一体どういう人なのか…これは正直、その人その人によるので一概には言えません。ただ例えば、カフェイン代謝酵素には遺伝子多型と呼ばれる、遺伝子上での小さな違いがあることが報告されているので、生まれつきカフェインの代謝能力が低く、副作用などが出やすいという人もいるかもしれません*1


またもう一つアレルギーに関しては、コーヒーそのものがアレルギーを起こさなくても、花粉症その他のアレルギー症状を悪化させるのではないかという指摘があります。ただ、これについては今のところ医学的にきちんとした報告はないようで、よく判らないのが現状です。その一方で、カフェインにはテオフィリンと同様に気道拡張作用があるため、ぜんそくの症状を緩和させるなど抗アレルギー的な作用があることが報告されているので、少なくともコーヒーやカフェインが単純にアレルギーに対して良くないということはなく、むしろ抗アレルギー薬として使われるケースもあるということは知っておいていただきたいところです。

*1:…他方、単なる「思い込み」にすぎない人がいることも十分予想されるのですが